※2006年4月13日発行の「ほっとくる」のインタビューで渡邉が答えた内容を一部紹介します。
ワタミグループが神奈川県などに老人ホーム 16 棟を持つ「アールの介護」の経営を始めて、早いもので1年が経ちました。当時、世間の人からは「外食産業がなぜ」と驚かれたものです。
しかし、私が「介護をやる」と言い出したとき、社内で不思議に思う人は誰もいませんでした。それは、ワタミグループが「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになりたい」をスローガンにしているからです。「喜んでいただく」ということでは、外食も介護も違いはありません。
「ワタミの介護」が目指すのは、「我が家以上」の住み心地です。
「我が家のように」は当たり前。
「本当は長年住み慣れた我が家で暮らしたい」ご入居者様に満足していただくには、「我が家以上」でなければなりません。そこで私たちは、外食産業で 21 年間培ったノウハウを取り入れています。
一番違うのは、食事です。ワタミには化学調味料を一切使わず、鰹や昆布のだしからおいしい食事をつくっている業態があり、これが介護施設でもベースになります。毎日食べても飽きないような素材を堪能できる上、ワタミの強みである有機農産物をふんだんに用い、ソフト食や刻み食まで手づくりしています。
二つ目の特徴は、ホスピタリティです。「ホームはご入居者様の幸せのためだけにある」という基本理念のもと、サービス業に徹した施設運営を行っています。
三つ目はグループ内のメンテナンス会社による住環境の整備です。
こうした特長は、いくら並べてもローコストで実現しなければ、ご入居者様に喜んでいただけません。そのために、私たちは企業努力を続けています。
ワタミが目指す施設は、そこに入れたら「親孝行だね」と言われる施設です。
食事の充実はもとより、ワタミが一から立ち上げる新規開発の施設では、最低 21 ㎡の個室を計画しています。お風呂は、機械で入れるような特殊浴槽だけでなく、できるだけ、一人ひとりで入っていただくひのき風呂にする予定です。
また、体の機能を衰えさせないようリハビリテーションに力を入れ、おむつゼロ、経管食ゼロを目指します。安易におむつを使わず定期的なトイレ誘導を行い、最後まで口からおいしく食べていただく努力をしなくては、入居者の息子さんや娘さんが「親孝行をした」と言われる施設にはなりません。
核家族化した現在、私は、在宅介護が「親孝行」で、施設介護が「親不孝」だとは思いません。どんなに好きなお父さん、お母さんをお世話していても、毎日だと負担が大きくなります。眉間にしわを寄せながら介護していたのでは、介護を受けている方も精神的に負担を感じますから、「よい施設」であれば、入れたほうがいい場合もあると思います。
先日、アメリカのロサンゼルスで私が見学してきた施設では、入所しているお年寄りが幸せそうな顔をしているばかりでなく、訪ねてきた家族も幸せそうでした。日本にはまだ、親を施設に入れることに後ろめたさを感じる風潮が残っています。欧米並みにとは言いませんが、日本でも早く「施設という選択肢」が当たり前になる日が来てほしいものです。
そのためには、よいケアを安価に提供する特定施設(有料老人ホームなど)がもっと増えなければなりません。国は、在宅支援の立場から特定施設に歯止めをかけようとしていますが、これはとんでもない間違いです。民間の競争力を利用し、一番コストパフォーマンスのよいところを選ぶことで、おじいちゃん、おばあちゃんが得をする世の中にしていくべきでしょう。
私は、 10 歳のときに母を亡くし、その後事業に失敗した父が借金返済のために東奔西走していたこともあって、 24 歳までの 14 年間、おばあちゃんの元で育ちました。おばあちゃんはとてもおしゃれで、踊りが好きで、 90 歳を過ぎても元気な人でした。今では両親も祖母もいませんが、施設を訪れるたびに懐かしさを感じるのは、自分にとって身近な何かを思い出すからでしょう。直接的な介護体験はありませんがその分、愛情深く育ててもらった恩を誰かに返したいのだと思います。
現在、日本には、退院したくても在宅で受け入れる余裕がないために「社会的入院」が蔓延しています。特別養護老人ホームは順番待ちで入れず、一定以上の水準を満たす有料老人ホームに入るには、途方もない入居金を支払わなければなりません。
外食産業で培った「価値ある商品を安価で提供する」ノウハウを発揮し、私たちの施設が全国で行き渡ったとき、「ワタミの施設に入れたら親孝行」と言われる日が来ることを目指しています。